【女将】
「不徳の致すところで申し訳ないです」
15年前、大阪の高級料亭船場吉兆が廃業しました。経営陣の一人だった次男が今、再起をかけて、奮闘しています。足を運んだ先は意外な場所でした。
「一番出汁がしっかりとれていないと味付けしてもおかしくなります」
日本料理の本格的なだしの取り方に…・三切れの鯛を使って…高級な鯛茶漬けの実演も。
これは「男の料理教室」?ではありません。兵庫県加古川市にある刑務所の中。生徒は、全員受刑者、出所後、飲食店などで働くことを希望しています。
「一期一会って聞いたことありますか?」
この日の講師は日本料理店の店主湯木尚二さんです。自らの過去を語り始めました。
【湯木尚二さん】
「2007年10月28日、今でも忘れません。今から16年前に新聞紙上を賑わす大きな事件が発生しました。それが船場吉兆の起こした食品偽装事件でした」
湯木さんは16年前、食品偽装事件を起こした高級料亭・船場吉兆の経営陣の一人でした。
【2007年当時 謝罪会見 湯木取締役】
「非常識極まれない事実がございましたこと、心からお詫び申し上げます」
母である女将と長男とのやり取りが注目され再建を計るも世間は厳しく…2008年、船場吉兆は廃業に追い込まれました。
【女将さん廃業会見】
「断腸の思いで本日をもって当社の営業を廃業させて頂くことになりましたので」
【湯木尚二さん】
「いろんなものを失いました。職も失い、財産も失い、そして周りの人たちも離れていく人たちが多くあり、何といっても信用を失ったことが一番辛く…」
そんな湯木さんの再出発を支えた一人がお好み焼き千房の当時の社長・中井政嗣さんでした。
【中井会長】
「世間から思いっきりバッシングされていましたから、その時湯木さんに頑張りなさいと、応援している人もいっぱいいらっしゃると思うからめげたらあかんよというようなことを言ったのを思い出しますね」
10年前に湯木さんは再び、料理の道へ。ミナミの6坪の店で一から出直し、今では北新地を含め大阪で日本料理店を4店舗経営するまでに。吉兆時代の常連さんの姿も。
旬の食材を引き立てるあでやかな器。
吉兆廃業時に手放したものを知り合いの食器店が買い戻してくれていたそうです。
【常連客】
「ああいうところからしっかりとまたのれんを作られてのは本当に素晴らしい」
「(吉兆の味)を超えているんじゃないですかね。いい過ぎですかね(笑)」
湯木さんと千房の中井さん、ふたりは30年来のつきあいです。
【中井会長】
「御曹司的な環境で育てられたのかなと思ったら何のことはない、自分の寝床はお客さんのお座敷だったと」
【湯木尚二さん】
「小学生の時からずっと自宅が船場吉兆だったので、母の着替え部屋で宿題をしたりして過ごした」
【中井会長】
「私のこどもがほったらかしで育ってきたのと被って、他人事とは思えなかった…」
料理のしめは、名物の鯛茶漬け。この鯛茶漬け、実は、湯木さんのおじいさんが吉兆を創業した当時からの看板メニューでした。
【創業者】
(料理を)出す時、持っている手が震える程楽しい。風流の茶心が合ってほしいと思います」
おじいさんの志を受け継いで…店の名前「湯木」はふたりの苗字、名付け親が実は中井さんでした。
【湯木尚二さん】
「北新地に出店するときには屋号を決めきれていなかったんですがその話をすると、間髪入れずに「湯木」あなたの名前が湯木、ええやんか、これでどやと」
店名のロゴは吉兆・創業者、湯木さんのおじいさんの字です。
【中井会長】
「あんな事件が起こっていなければこんなに親しく付き合ってなかったから人の出会い、巡り合わせはわからないものだな」
そして10年前に、中井さんらが立ち上げた受刑者の更生支援活動に
湯木さんも参加し、受刑者の社会復帰をささえています。
【湯木尚二さん】
「自由な発想でちらしずしを彩ってください」
活動の一環で受刑者が円滑に社会復帰できるよう去年から、刑務所の中で日本料理を
教えているのです。代々続く、料亭秘伝の味も惜しみなく伝授します。受刑者たちも高級料亭の味に舌鼓。
【受刑者】
「なんか全てが計算されているような、すごくおいしいです」
【受刑者】
「失った信用を取り戻すのってすごくしんどかったと思うんですけど、踏ん張れた理由は?
【湯木尚二さん】
「もう起こってしまったことは仕方がない、それに対しては真摯に向き合って二度と同じことがないようにという思いとともにご迷惑をかけた方々には心からお詫びを申し上げてまずはそこからスタートが切れる。二度と同じ過ちは繰り返さないように自分の戒めとしてもこのロゴを常に胸に留めています」
受刑者たちの気持ちにも変化が…
【受刑者】
「未来の人生を好転させることができるような人生の教訓を学べて本当に良かった」
「自分も腐らずやっていこうかなと思わせて頂いたので、きょうは本当にいい勉強になりました。ありがとうございます」
【湯木尚二さん】
「二度と人に迷惑をかけないようにと、私もそうなんですよ。私も二度と人様に迷惑をかけないようにという思いは強く持っていますので、一緒ですから、ね。私は良く「セカンドチャンス」という言葉を使うんですけども…」
「セカンドチャンス」。一度失敗したら終わりではなく、やり直せるチャンスはある。
過去は変えられないが未来は変えられると自身の経験からエールを送りました。
【湯木尚二さん】
「屋号は変われど、その考えや料理に向き合う信念と言いますか、思いは引き継いでこれからもこの生業で生きていきたいと固く決意しています」
最後に、気になっていた女将さんの今をたずねると…
【湯木尚二さん】
「食欲も旺盛で、頭もしっかりしております。ただ耳がちょっと遠くなって、逆に声が大きなって、もうささやくことはでません、ハイ(笑)」
#船場吉兆 #女将 #食品偽装 #ささやき女将 #湯木
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